2020/09/05

VHFチョーク

Bias-Teeを作っているが、周波数特性を下の方(長波帯まで)に伸ばそうとすると意外と難しい。

Bias-Tee自体は、コンデンサとコイルを1つずつ使っただけの単純な回路なのだが、コイルのインピーダンス(の絶対値)|Z| = |jωL| = |2πfL| が周波数fに比例するため、より低い周波数を遮断しようとするほど自己インダクタンスLの大きなコイルを使う必要が出てくる。 しかし、Lが大きいと今度は自己共振周波数(L//C + Rの等価回路なら自己共振周波数f ∝ 1/√(LC))が低下し、結果高周波帯の特性が悪くなる(L ∝ N2ならばLを大きくするために巻線数が増えるため、巻線同士の結合が強くなり、結果Cが大きくなる?)。

つまり、広帯域なBias-Teeを作ろうとすると、自己インダクタンスが大きいが自己共振周波数も高い、相反する声質を持つ性能の良いコイルが必要になってくる。

例えば、f = 100kHzでは、インピーダンスZが|Z| = 50となるような自己インダクタンスは50 / (2×π×100×103) = 7.95…×10-5 ≒ 80μHである。 しかし、例えばDigi-keyで100μHのインダクタを検索すると、自己共振周波数は数MHz程度のものが多く、高くても10MHz台だ。

そんな中、一つだけ自己共振周波数が55MHzと飛び抜けて高いコイルがあったので、今回購入してみた。 TDKの「B82111Eシリーズ」だ*1

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TDK B82111Eシリーズ(100μH・220μH・470μH)

データシート(pdf)を見ると、"VHF chokes"とあるので、VHF帯で使用可能な(RF)チョークコイルを主目的としているようだ。 "Features"には"High resonant frequency"とあり、自己共振周波数の高さは意識されているらしい。 また、"Applications"には"RF blocking and filtering", "Decoupling in telecommunications and entertainment electronics"とある。

つまるところ、(自己インダクタンスが高い割に)高周波帯での特性が比較的良いという点では、正に今回の用途にピッタリ。

ちなみに、自己インダクタンスが一番高いものとして1200μHのものがあるが、Digi-keyで手に入る(在庫がある)のは470μHまで。 今回、100μH, 220μH, 470μHの3種を購入してみた。

実際入手したものを眺めてみると、円柱状のフェライトコアに、比較的細い巻線が密に巻かれている。 そのため、ESRは比較的高そうで、あまり大電流は流せないように思われる(実際、100μHではESR = 0.65Ωで最大定格電流1A、470μHではR = 6.5Ω、I = 0.3A)。

しかし周波数特性の良さは唯一無二と思うので、これでBias-Teeを作ってみようと思う。

難点というと、チップ製品ではなくアキシャル・リードの製品なので、供給がいつまで続くのだろうか疑問(データシート的には2012年発売か)であることと、少なくともデータシート上に記された特性を基準にして言うと、換えが効かなさそうな部品であること。

他のVHFチョークは以下から確認できる。

リード インダクタ (EPCOS) | TDK Electronics AG https://www.tdk-electronics.tdk.com/ja/1031602/products/product-catalog/inductors--coils-/leaded-inductors--epcos-

メモ:リードが長い分、リードそれ自体が自己インダクタンス成分を持ってしまうが、100μHに比べたら微々たるものであるから無視できそう

メモ2:Lの先でCをGND間に接続すると、|CのZ| << |LのZ|となるので、結果的に回り込みは防げるのかもしれない(そこまでLのZに拘らなくてもよいのかもしれない)…と思っていたが、そうすると|LのZ| // 50Ωという状況になってしまい、負荷抵抗が小さくなるからダメか。

メモ3:よく知らないけれど、比透磁率の高いトロイダル・コアを使用しても、低い巻数で高い自己インダクタンスが得られそうなので、良いのかもしれない。ただ、高周波でトロイダル・コア自体の性質が微妙になって広帯域ではダメかもしれない。

Perseusのリレー

AORが販売しているMicrotelecom.itのSDR受信機Perseus。その内部の写真を見かけたのでメモ。 アンテナ入力後にある多数のフィルターは、リレーで切り替えるらしい。n : 1なので、SPSTをたくさん並べている。 フィルターも部品数から考えるにそこまで段数は大きくないみたいだ。 また、入力側と出力側の信号線は結構長いが、それでもあの性能なので問題ないみたいだ。

他にも、全体的に比較的簡素な構成(ANT - フィルタ群 - アンチエイリアスフィルタ - 非平衡 - 平衡変換トランス(Mini-circuit) - 差動オペアンプ - ADC - FPGA - Cypress USB IC)をしていると思う。 AOR AR5001Dの内部写真を見ると、対照的に部品がぎっしりつまっている。こちらではHF関連はボード全体のうち1/4程度を占めるに過ぎないが、それでも比較的密な実装である印象

*1:2008年に買収したドイツEPCOS AGの製品らしい